【いろいろtv_#54】県庁のまちづくり!佐賀スポーツピラミッド構想にかける想い

「いろいろTV」はいろいろ株式会社代表の青木が気になる人に、いろいろなおはなしをお聞きするオンライン番組です。

第54回目は、ゲストに佐賀県庁にてSSP推進局SSP総括監と政策部政策総括監を兼務する日野稔邦さんをお迎えして、SAGAスポーツピラミッド構想にかける想いや、日野さんのお仕事、目指していることなど、いろいろおはなしをお聞きしました!

目次

異例のプロジェクト兼任

本日はよろしくお願いします。まずは日野さんの自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか?

はい。日野稔邦といいます。

現職というところに佐賀県庁と書いてますが、SSP総括監としてスポーツ政策に関する仕事をしてます。

また、政策総括監として、佐賀で新しい大学を作ったり、大学をどうやって地域に生かすかというような政策を練る仕事をしてます。

県庁職員ですのでスポーツの専門家でもなければ、教育のプロでもないです。ここに書いてあるとおり、1996年に佐賀県庁に入って一貫して役所の仕事をしているということでご理解いただければと思います。

総括監という肩書きは、どういった役職になるのでしょうか?

佐賀県庁は部長級が事務方のトップで、その次が副部長級、そして課長級というように階層が分かれています。

僕はその副部長級です。

佐賀県庁の場合、「副部長」や「副局長」という役職名の人もいれば、僕のように「総括監」という肩書きの人もいます。

「総括監」はプロジェクトマネージャのような位置づけで、「その領域に関しては一定の権限が与えられている」と思っていただければと思います。

そうすると、SSPのスポーツ政策と、県立大学を作るという政策の二つのプロジェクトを掛け持ちしていらっしゃるということですね。
全く違う領域だと思いますが、どういう経緯でその二つを担当されることになったのですか?

経緯を言うと、「それは知事に聞いて」という答えになってしまうのですが(笑)

今はスポーツの総括監と大学を作る総括監の二つをやっていますが、その前は県庁でコロナ対策の事務局長をやっていたんです。

2018年からスポーツを担当し、2年後の2020年に新型コロナが流行しました。

当時は、どこの都道府県も同じでしたが、コロナ専用の病院を確保したり、病院に入れない軽症の方のために役所が借り上げたホテルを手配するという仕事がありました。今思えば「何だったんだろう」と思うようなことも、当時は手探りで一生懸命やっていましたね。その事務方の責任者も任されたんです。これもプロジェクト系ですね。

そこで、「この人なら二つくらいプロジェクトを回しても上手くやれそうだな」と周りから思われたんだと思います(笑)

コロナ対策の後に、今の大学政策などを任されたということなんですね。

そうです。コロナが落ち着いて、感染症に特化した医療体制から通常医療に戻ったら、当然そうした臨時のプロジェクトはなくなります。

これでやっとスポーツ一本で行くかなと思っていたら、間髪入れずに「今度大学を作るから担当してください」と言われました。

なるほど。そういった働き方は県庁の中では、かなり珍しいのですか?

珍しいと思います。

こういう働き方はあまり聞かないと思います。

ただ、自分にとっては結構良い働き方になったと思っています。僕は、堪え性がないというか、そういうところがあるんですよ(笑)

集中力が続かないというか。そういう人間だと、二つくらい並行してやるのが向いているのかもしれません。あと、誰かが作ったものを引き継いでやるというのも、多分性格的に合わないんです。

ゼロから自分で考えるのが好きなので、得意なことを二つやらせてもらっているような感覚です。

では、すごく楽しい状況なんですね。

楽しいんですよ、これが!

楽しそうですね(笑)。

ある案件について「どうしようかな」と悩んでいても、15分経つと集中力が落ちてくるのが自分でわかります。そういう時は、いいアイデアが全く浮かばないんです。

そんなときに別のことを考え出すと、5分後くらいにさっき考えていたことの答えがポンと浮かぶことってありませんか?

ありますね!

青木さんや小林さんも、一年中そういう仕事をしているようなものですよね?

いろいろなプロジェクトや企画を動かして。

そうですね!会社名も「いろいろ」ですし(笑)。

クライアントの仕事を受けて、納品するまでずっとその仕事だけをやるということはないですよね?

この会社になってからは全くないですね。小林もないと思います。

ですよね。

要するに、5つも6つもプロジェクトが同時に走っていますよね。

はい、走っていますね。

その感覚に近いと思います。

3人チームから始まったスポーツ政策

勝手なイメージですが、県庁などの自治体の方だと定期的に異動があって、仕事も部署のものという感覚があると思います。スポーツ政策の担当は2018年からと長いですね。

はい。もう9年目ですね。

最初から総括監だったんですか?

いえ、最初は副課長でした。

2018年に「SSP構想を県庁として進める」という話になりました。しかし、いきなり「10人でやろう」「20人でやろう」とはなりません。そもそも前例のないプロジェクトですからね。

まずはプロトタイプになるような、基本的な考え方をまとめなければいけません。

だから、とにかく「形にする」というところから始まりました。

なるほど、そういうスタートなんですね。

当時は副課長で、部下は二人しかいませんでした。

半年ほどかけて、これからどういう政策を打っていくかというベースを作ることが最初の仕事でした。

計画や戦略の策定から入って、それを実行しているということですか?

そうですね。

SSP構想そのものは、今の知事が就任する前から持っていた想いがベースにあります。単なる日本の「体育」ではなく、スポーツビジネスや街づくり、地域経済と一体になった形でスポーツ政策をやろう、というものです。

それを「佐賀県の政策」として実行するには、役所の言葉に置き換えたり、手続きを踏んだり、いろいろな人を巻き込んだりする必要があります。

まさにそういった最初のプランニングから今までずっと携わっています。

僕らも自分たちで企画などをするとすごく思い入れが出てくるのですが、日野さんもこのSSPには我が子のような思い入れがありますか?

それはありますね。

だから飽きないんです。

どんなプロジェクトでもそうだとは思うのですが、5年前と今とでやっていることが同じなはずはありません。プロジェクトが上手くいっていたとしても、必ず別の課題が浮かび上がってきます。

また、役所だけでやっているわけではなく、青木さんたちのように民間企業の方々ともお付き合いもたくさんあります。

県内外のスポーツ関係者との付き合いが増えると、「こんなことを考えてみては?」「これ面白いんじゃないか?」といろいろなご提案やご意見をいただきます。「これは佐賀県のためにやった方がいいな」と思うこともあり、やりたいことはどんどん膨らんでいくわけです。

最初は僕と部下二人の小さなチームからスタートしましたが、今はSSP推進局という大きな組織になりました。

スポーツビジネスの担当が数名、アスリート育成の担当が十数名、さらに子どもたちの寮の設立担当が数名いるなど、プロジェクトが大きくなるにつれて細分化しています。

細分化すると、僕自身が細かい実務を行うことは減りますが、みんながバラバラな方向を向いたり、優先順位を間違えたりしないようにするのが僕の仕事です。

毎年直面する状況であったとしても、毎年環境は違うわけですし、全く新しく取り組むこともあって、楽しくて仕方がありません。

まさしく新規事業の立ち上げですね。最初はプロジェクトだったものが事業になり、組織になって大きくなっている状況なんですね。お話を伺ってそう感じました。

そうだと思います。

ただ、一番変えたいと思っているのは、だんだん僕が詳しくなりすぎているので、僕の思い込みで進めている部分もあるかもしれないという点です。

これからのSSP構想をさらに大きくしていく上で、そのバランスが少し難しいところだと考えています。

創業者の悩みと同じですね(笑)

子どもたちの育成という視点からのスポーツ政策

スポーツ政策ってすごく面白いんです。

必ずしも合理的なものばかりではないというか、経済原理に即したものばかりではありません。

例えば「子どもたちの育成」となると、どこまで行けば育成が成功したのか、指標が非常に難しいですよね。

ただ勝てばいいのかというと、それも違う気がします。

目指しているものは僕の中では明確なつもりですが、マイルストーンをどこに置くか、社会のニーズをどう捉えるかは悩みます。特に高校生を中心にしたアスリート育成となると、「勝利至上主義との戦い」のような側面もあります。

長くしっかり関わることで、人間関係などの表に出てこないようなことを察知できるようになり、危険回避のセンサーが働くようになります。

あるいは「これがこれから面白そうかもしれない」というセンサーは、経験を積むほど働きやすい領域だと思います。

なるほど、経験値が活きる領域なんですね。

ビジネス誌で「来年はこれが来る」とアナリストが予測しますよね。

そうですね。そういった記事はよく見ますよね。

でも、スポーツにはそういうものが少ないんです。

手探りでやっていかなければならない部分が多いので、経験値でカバーしていくしかないと思っています。

教育分野のような公益的な側面がある一方で、「スポーツで稼ぐ」ということも強調されていますよね。
一企業とは違い、そのバランスを取るのが非常に難しいと感じますが、どういう感覚で仕事をされているのですか?

SSP構想には、「子どもたちの育成」や「社会人の就職支援」といったアスリートに対する政策と、県内の企業などに「スポーツビジネスに乗り出してほしい」と促す政策の両方があります。

子どもたちの育成という「ザ・スポーツ政策」と、スポーツビジネスで街の経済を高めるという「欧米型のスタイル」。

この二つが、SSPのエンジンになっています。

最終的な目標は、スポーツを「体育」に閉じ込めず、佐賀の民間企業の人たちがスポーツビジネスで稼げるようになることです。

しかし、仮に最初から「稼ぐ」という面からスタートしていたら、上手くいかなかったと思います。

いきなり「稼ぐ」と言うと、スポーツ界の方々からは「スポーツで金儲けするなんて邪道だ」と思われかねません。もちろんスポーツとお金は切り離せないのですが、日本の部活動などは、学校の先生方の「サブスク労働」のようなものに頼ってきた歴史があります。

部活動を地域移行して外部指導者にお願いするとなると、「謝金は誰が負担するのか?」という問題が出ます。国の月額標準も驚くほど安かったりします。日

本の体育は学校の中を中心としていたこともあり、お金と縁がない文化だったので、いきなりビジネスの観点から入るのはリスキーでした。

それに、子どもの育成を軸に据えるのは非常に大切です。

佐賀県は県立高校が非常に多いんです。県内に40ほど高校があり、そのうち30校が県立です。

都市部とは全く違いますよね。

違いますね。

最近はどんなスポーツの大会でも私立高校が上位にいくことが多いですが、佐賀では地元の県立高校が全国で活躍すると、生徒だけでなく地域全体の誇りになるんです。

地元の高校が活躍すると嬉しいですね。

地元のメディアも大きく取り上げてくれます。

プロチームほどではないかもしれませんが、地域への影響力は間違いなくあります。

現在、人口減少に伴って学校の統廃合の話がよく出ます。

しかし、学校が減った町は元気がなくなってしまいます。

定員割れになるくらいなら、「佐賀はスポーツで尖っているよね」という評判を作ることで、福岡県などから佐賀の高校にスポーツ目的でどんどん入学してきてほしいと思っています。

福岡県からもスポーツでの進学で佐賀県の高校に入学することも多いですよね。

都道府県で1校しか全国大会に行けない競技はたくさんあります。

それなら、高校数の多い福岡で勝つよりも、佐賀で勝つ方が確率的には高いわけです。

都道府県対抗制である以上、他県から佐賀に来て活躍するのもチャンスだと考えていますし、他県からの流入があることは佐賀県の子どもたちにとっても良い刺激になります。

地方に住んでいると、小中高とずっと同じようなメンバーで固まってしまうリスクがあります。

なるほど、外からの流入が少ないとそういうことはありそうですね。

僕は親が転勤族だったので、いろいろな土地で「はじめまして」から関係を築く経験をしました。

しかし、地方、特に一次産業が主となるような地域などは親の転勤が少なく、同じ価値観の人たちだけでまとまりがちです。

それは体験価値としてもったいないので、県立高校に他県の子供がいても全然いいと思っています。

構想をスタートした2018年当時はそこまで考えていませんでしたが、今は「主体性」や「多様性」を育むことが本当に大事だと実感しています。

多様性を育む仕掛けとは

例えば「サッカーをやりたい」と集まった生徒の出身県がバラバラであるような、ダイバーシティに富んだ環境を作りたいんです。

そのために、県外から来た子どもたちのためのアスリート寮も用意しています。

企業の使われていなかった社員寮をリノベーションして活用しています。

佐賀市にある寮では、15校ほどの異なる高校、18種目ほどの異なる種目の子供たちがごちゃまぜに暮らしています。

え、一つの寮に、同じ高校や同じ競技の生徒だけでなく、みんな一緒にいるんですか?

ごちゃまぜです。

これの良さは、晩御飯を食べながら、サッカー部の高校生と陸上部の高校生が「その競技ではどんな練習をしてるの?」と会話できることです。

自分が経験していない世界を知ることができるんです。

それはいい刺激になりますね!

スポーツをやっていると、中学で競技を選んだらそのまま一筋になりがちです。

そういうケースが多いですよね。

だからこそ、大人が意識的に「多様性」を仕掛けていく必要があると思っています。

以前お聞きした、学校ごとに強化スポーツを割り当てているというのも合理的で面白いと思いました。県というトップダウンだからできることですよね。
寮の話も、海外留学先の寮にいろいろな国の人がいるような状況と同じですね。

そうですね。

「この高校は柔道」「この高校はサッカー」と拠点を決めて優秀な指導者を配置し、県外から来ても質の高い指導が受けられる体制を整えています。

一つの競技に色々な県の人が集まることで多様性が生まれますし、さらに先ほどの「ごちゃまぜ寮」のような仕掛けもあります。

スポーツを生かした人づくり

全ての選手がオリンピック選手になるわけでも、大学まで競技を続けるわけでもありません。

タイミングはいろいろありますが、どこかで「競技一筋」の人生から離れる時が来ます。

アスリートのOB・OGに話を聞くと、「競技しかやってこなかったことがもったいなかった」という声をよく聞きます。

当時は一生懸命だったから正しいとも言えますが、どちらが正解かは誰にもわかりません。

ただ、スポーツにそれほどのめり込むエネルギーがある人がいる一方で、その競技空間に息苦しさを感じる人がいたりもします。

その場合、「抜け道」が用意されていることも重要です。

セカンドキャリアを考えたり、別の競技に目を向けたりできる「もう一つの選択肢」を政策として提示することには意義があると思っています。

なるほど。どうしても「強化」という面に注目が集まりがちですが、勝ち負けだけでなく、スポーツに関わる人生を政策として見ているのは、やはり佐賀県という場所で生活する「県民」全体を考えてのことなのでしょうか?

そうですね。

私がスポーツをやってこなかったからこそ、そう思えるのかもしれません。

知事が作ったイメージを政策として形にする過程で、「スポーツを生かした人づくりとは何か」を深く考えました。

スポーツをする側から見ると、「うまくなること」「精神力が鍛えられること」「協調性やリーダーシップが身につくこと」などが挙げられます。

これらは「競技者としての人づくり」ではあると思います。

でも、スポーツってそれだけなのか?と疑問に思ったんです。

部活をやっていたというきっかけを、その後の人生にどうプラスに活かせるか。そこまで考えないと、「スポーツを生かした人づくり」とは言えないのではないかと思います。

一歩間違えれば、かつての東側諸国のように、国家の威信をかけるというような強化政策になってしまいます。

これはスポーツ本来の楽しさなどがなくなってしまうと思っています。

そういったことは避けたいですね。

スポーツ本来の楽しさから離れてしまうのは避けたい。

だからこそ、セカンドキャリアや別の競技への移行など、「離脱の自由」を含めた選択肢を大人が制度として用意することが大切だと考えました。

スポーツ界全体のスタンダードな認識が「セカンドキャリアを早くから考えるのは良いことだ」「合わなければ別の競技に移ってもいい」となれば、役所が介入する必要はなくなります。

なるほど、自治体だからできる視点、スポーツをやってこなかったからの視点ですね。

ただ、残念ながら、まだそこまでには至っていないと感じるので、我々が政策として選択肢を提示しているんです。

社会の意識を変える、学術と実践の融合

以前シンポジウムで日野さんが「スポーツで稼ぐ」と仰っていたのが印象的でした。稼ぐことも、セカンドキャリアも、「それだけじゃなくてもいい」という思想を作るのは、自治体にしかできないことですね。制度や施設を整えることで意識が変わっていくと考えると、まさに行政の役割ですね。

本当にそうなんです。社会の意識改革を求めているようなところがあります。

スポーツとの関わり方には「する」「見る」「支える」と言われますが、僕たちはそこに「育てる」「稼ぐ」を加えています。

スポーツにはもっといろいろな関わり方があるということを伝えたいんです。

もちろんそれぞれに、関係性はあると思います。「する」という概念がなければスポーツは成り立ちません。ですが、「する」ということを絶対視しすぎると勝利至上主義や閉鎖的な環境を生んでしまいます。

「する」ことの価値を認めつつも、「見る」「支える」「育てる」「稼ぐ」といった多様な関わり方の中で、絶対視しないように持っていきたいというのが僕の理念です。

日野さんとの共通の知人に「スポーツ政策なら佐賀県と広島県が進んでいる」と聞いたことがあり、なぜなのか興味がありました。今日のお話を伺って、単なる「強化」ではなく、多面的なアプローチをしているからこそ、いろいろな人を巻き込めているのだと腑に落ちました。

その通りだと思います。

「スポーツ振興」というと、ほとんどの自治体はスポーツそのものを推進したり、環境を良くしたりすることに終始しがちです。

それも大切ですが、それだけでは自治体の政策として成り立たないと思っています。

なぜかというと、スポーツの語源であるラテン語の「デポルターレ」は、「気晴らし」や「レクリエーション」を意味します。

単なる気晴らしに公金を投入するのか、という話になってしまいますよね。

だから、「スポーツの社会的な価値は何か」「スポーツの力とは何か」「人づくりにどう影響するのか」を論理的・理念的に問い続けないと、政策がブレてしまいます。そこが佐賀県のこだわりのようなものに通じているのだと思います。

先日も学術フォーラムを開催されていましたね。

チェックしていただきありがとうございます。

あのフォーラムも、単なるシンポジウムではなく、研究者と実践者を同じ分科会にセットで登壇してもらいました。

実践者だけで語るのも、研究者だけで語るのも違うと思ったからです。意外とそういう場はないんですよ。

学会は研究者同士ですし、市民向けセミナーは少し内容が易しくなります。

僕たちは政策としてスポーツを組み立てているので、学術的なアプローチできちんと論理的に説明し、これからのスポーツに必要なものを見つけ出したい。でも、それが言語として現場で共有され、実践されなければ意味がありません。

「どうすれば早く走れるのか」というような研究や実践はされるものの、社会への影響などはあまり研究・実践されていないと思っています。

だからこそ、社会がスポーツの力をどう受け止めるかにフォーカスしながら、学術的なアプローチも大切にしています。

それも先ほどの寮の話と同じで、あえて異なる立場の人をミックスさせる場を作っているんですね。

そうですね。

去年の3月、佐賀県議会で「SSP構想推進条例」が全会一致で可決されました。

その中に、個人的にどうしても入れたかった条文が3つあります。

一つは、「子どもたちの指導者は、子どもたちが主体性を持ち、多様性のある人間になるよう育成しなければならない」ということ。

先ほど、お話いただいたことですね。

2つ目は、「スポーツビジネスで稼ぐ」ということです。

単に誰かが稼げばいいのではなく、その果実がスポーツの振興や子どもの育成に還元される循環を目指すということを明記しました。

そして3つ目が、「佐賀県という組織がスポーツについて調査研究し、発信していく」ということです。学術フォーラムもその一環でした。

例えば、スポーツのルール変更も、最近は「どうすれば見ている側が面白いか」という視点で行われることが増えていますよね。昔はヨーロッパが有利になるルール変更といった批判などもありましたが、最近は違いますよね。

確かにその観点でのルール変更が目立ちますね。

今回のサッカーワールドカップのハイドレーションタイムなどもそういった側面もありますよね。

スポーツビジネスと結びついた、観ている側の満足度や興奮度を高めるためのルール変更もあります。

また、例えばオリンピックでは、観ている側の満足度の観点ではないルール変更もあります。

男女のアスリート数を同じにする競技が増えました。女性が排除されがちだった歴史を変えようとする、社会変革を促す意味合いがあります。

このように、ルール変更一つとっても様々な観点があるわけです。「だったらこういうルール変更があってもいいじゃないか」という提案などもできたら良いなとも思っています。そういった様々な角度からの情報発信も行っていきたいと考えています。

100年時代の学びの場

県立大学の構想についてもぜひ伺いたいです。政策としてどういうことを狙っているのでしょうか?

これは佐賀県の特殊事情が大きく関係しています。

佐賀県は、47都道府県で一番大学の数が少なかったんです。

そうなんですか。知らなかったです。

今年の4月に民間の大学が開学して3つになりましたが、それまでは国立と私立が1校ずつしかありませんでした。

そのため、大学進学希望者の85%が県外に出てしまっていたんです。

それは大変な数字ですね。

お隣の福岡県には大学が35校もありますからね。

私立を含めると多いですよね。

福岡の大学に行きやすいという理由もありますが、やはり学生がどんどん出ていってしまいます。

そして、卒業後に全員が戻ってくるわけではありません。

人口減少が進む中で若者が出ていってしまうと、県の産業や経済、教育、福祉など、社会を維持するために必要な人材が確保できなくなってしまいます。

大学があれば、18歳から22歳の若者を一定数地元にキープできます。議論はそこから始まりましたが、それだけではありません。

人生100年時代と言われる今、22歳で学びが終わる時代ではなくなりました。

大学で学んだ知識も、10年経てば古くなります。

AIが進化し、Zoomのようなオンラインツールがスタンダードになったように、10年後はさらに技術が進んでいるでしょう。

知識がAIに代替されたり、AIを前提とするような中で、社会人の学び直しの機会を提供する高等教育機関が地元にないと、地域は衰退してしまいます。

だからこそ、18歳からの4年間のためだけでなく、社会人も学び直せるような大学を作ろうと議論しています。

県内にそうした教育や研究の機関がないと、社会人が何かを学ぶ場も機能も持てないということですね。

昔の大学は「モラトリアム」のような場所でしたが、今の大学はしっかり教育を受ける場所に変わっています。

絶えず新しいものを吸収しないと、社会で活躍できない時代です。

知識はAIに任せるとしても、他者の意見を理解や共感をしたり、折り合いをつけて共に創り上げる「コミュニケーション能力」や「共創力」が重要になります。

僕たちは「経営情報学(マネジメント・データサイエンス)」を専門とし、人間ならではの力を伸ばす教育を目指しています。

社会人が学び直せる場として活用してもらうことで、佐賀県が「人が成長し続けられる地域」になればと考えています。

スポーツ政策とも「人づくり」という根底の思想が共通していますね。

人づくりは非常に大切です。

確実な答えはないと分かっていても、そこにこだわることは重要だと思っています。

行政の仕事が、時代に合わせて社会実装を変えていく役割を担っているのですね。

自己実現の街づくり。ヒントが転がっている佐賀県を目指して

今日お話を伺って、日野さんのお仕事は非常にクリエイティブなことをされていると感じました。「県庁のお仕事」というイメージには収まらないですね。
最後に、日野さんが佐賀県で今後どういうことをやっていきたいか、その想いを聞かせていただけますか。

人がその地域を好きかどうかの尺度として、「自己実現しやすい場所かどうか」があると思っています。

自分の好きなように生きられるかどうかです。

経済的な成功を目指す人もいれば、文化活動をしたい人もいます。

人それぞれではあるものの、その夢に近づくための「ヒント」がそこかしこに転がっている地域って、すごく面白そうだと思いませんか?

面白そうな地域ですね!

直接の繋がりがなくても、2人くらいに相談すれば適切な人を繋いでもらえるような、フットワークの軽い地域が理想です。

役所の仕事は、価値観を押し付けることではなく、「自己実現ができる社会」をどう作っていくかだと思っています。

これからもそういう仕事をしていきたいですね。

いいですね!かっこいいし、面白そうです!

ゲストプロフィール

日野 稔邦(ひの としくに)氏

佐賀県庁職員/SP推進局SSP総括監/政策部政策総括監

1973年生まれ、佐賀県庁職員。市町村課、介護保険準備室、財政課、政策監グループ、医務課などを経験し、現職はSSP推進局SSP総括監(スポーツ政策、SAGAアリーナを担当)と政策部政策総括監(佐賀県立大学など大学政策担当)。

大の歴史好きで、趣味はまち歩き、史跡めぐり

〜 第54回目の「いろいろTV」を終えた青木の振り返り 〜

佐賀県庁の日野稔邦さんをお迎えした54回目のいろいろTV、イメージしていた県庁のお仕事の枠を超えたお話、何より楽しそうにお話される日野さんのおかげで、あっという間の時間でした。

日野さんのお仕事は、新しい文化や事業を社会実装されているお仕事をされているんだなと感じました。政策という形を県民の方の視点を中心に事業者や地域といった複合的な視点で創られていて、日野さんのお話を理解しようと聞くことで、事業について考える視点や構造を更新できたなと刺激の多い時間でした。

SSP構想というスポーツ政策の分野を担当されているイメージが強かったのですが、現在のもう1つの担当である県立大学の話もお聞きでき、「人づくり」や「佐賀県を魅力的な地域にすること」といった佐賀県庁の職員という矜持のようなものを感じることができました。だからこそ、「ごちゃまぜ寮」のように細部までこだわりの詰まった施策からSSP NEXUSのような学術的なアプローチまで、重層的に積み重ねられている点が佐賀県の取り組みをおもしろいと感じる1つの要因なのかなと新たな発見がありました。