「いろいろTV」はいろいろ株式会社代表の青木が気になる人に、いろいろなおはなしをお聞きするオンライン番組です。
第57回目は、ゲストにカラクリワークス株式会社所属、味憶 主催者の山崎達樹氏をお迎えして、「味憶」への想いについて、いろいろおはなしをお聞きしました!
目次
デザイナーとしてのキャリア


はい。福岡のカラクリワークスというホームページやグラフィックの制作、イベントの企画などを行う会社に所属しています。
自社にもスタジオやちょっとしたホールがあり、そこで自社発信のイベントを開催したり、貸し出しなども行っています。
社長がすごくいろいろやっている人で、昔は日替わりマスターがやりたいコンセプトのバーを開くような企画もやっていました。そういったことをいろいろと展開している会社です。


素敵と言っていいかわかりませんが、私はそこでデザイナーをしています。
ただ、デザイナーというよりも「 何でも屋 」という表現が近いです。グラフィックもwebも、場合によっては映像なども含めて全般的に担当しています。



そうですね。所属する会社は何度か変わっていますし、フリーランスの時代もありましたが、一貫してデザインの仕事を続けています。
現在は紙媒体もweb媒体も多いですが、もともとは紙ものを扱う職場で長く働いており、その後web系の会社にも在籍しました。現在はデザインを総合的に手掛けています。


私は世代的に、ちょうどDTP( パソコンでのデザイン制作 )が普及し始めた頃から携わっています。
ギリギリ、紙を自分で切って貼るような作業を20代の頃に経験している世代です。当時の先輩デザイナーには、やはりすごい方が多かったですね。
家族の「 なんでもない日 」を本に残すサービス『 味憶 』


一言で言うと「 家庭料理のレシピ本を作るサービス 」です。
私が実際にご依頼いただいた方のお宅にお伺いし、ご飯を作るところから実際に食べるところまでの一連の流れを取材し、それを本にまとめるというものです。

ただ、一般に流通する広く読まれるための本ではなく、ご依頼いただいた方とそのご家族や親族など、かなり近い人たちだけが読むための小ロットの本として制作しているのが最大の特徴です。
非常にプライベートな情報が詰まった写真を含む、家族のアルバムのような一冊になります。

コンセプトは「 ご飯で紡ぐ、なんでもない日 」です。レシピ本という体裁はとっていますが、アルバムのようなものを制作します。
食事という「 普通の日の情報 」はなかなか記録に残らないものです。
しかし、いざ振り返ると普段の食事はすごく重要ですよね。そこを意図的に残すことは少ないので、私が第三者のインタビュアーとして入り、皆さんの普通の生活を切り取って収めることに取り組んでいます。


人生の節目に合う本なので、ご自身が結婚される際に親御さんの料理を残したいというケースや、高齢のお母様をお持ちの方がお元気なうちに記録に残しておきたいというご要望が多いです。
お誕生日プレゼントとして制作される方もいらっしゃいますね。
お母様の「 コロッケ 」が原点。思い出を記録する意味


私は長崎県の諫早出身で、18歳で地元を出て以来ずっと実家を離れています。
お盆や正月など休みの時に帰省し、みんなでご飯を食べるのですが、たまに帰ってくる私のために母が張り切ってお寿司などを頼んでくれるんです。若い頃はお金もなかったので、それはそれでとても嬉しかったのですが、でも、そういう時に実際に食べたいのは母の手料理だったりします。
実家を出ている以上、毎日のように母の手料理を食べることはできません。帰省する時間も短く、食べられる回数も少ないなと考えていた時期がありました。

ふと振り返った時、母がそれほど体が強くないこともあり、「 実家の料理を食べられる機会って、実はものすごく少ないのではないか? 」と気づいたんです。
単純計算で「もしかしたら、あと30回もないんじゃないか」と思い、これは記録しておかないとやばいと焦りました。
うちは男三人兄弟ということもあり、母の手料理をきちんと教わって作るような機会もありませんでした。
そこで、デザイナーという自分の職能を活かして記録に残そうと考え、母を取材しに行きました。

その時に取材して作ったのが、「 コロッケ 」の本です。これが現在の味憶の原型であり、ほぼ完成形とも言えるものです。
母は料理がとても上手だったのですが、特にこのコロッケは人気で、親戚が多い我が家において、母が作るという噂を聞きつけた周りの人が奪いに来るほどでした。
現役の頃は本当に100個単位で作っていたので、味だけではなく、そういった思い出も詰まっています。とても美味しいので、これを題材にして残そうということになりました。


確かに変な感じはありましたが、そこはプロとして「 私はインタビュアーです。今回は取材者として伺っています 」と伝え、しっかりと取材者に徹しました。


わかりやすく感情に出すタイプではありませんでしたが、やはり嬉しかったようで、とても喜んでくれました。
ただ、「 ここの手順はちょっと違うな 」とツッコミを入れられまして、「 すみません、次に印刷する時に直しておきます 」と謝りました(笑)


はい、本当に親しい親族には配りました。
ありのままの台所を撮る。「 ケ(日常)」を残すこだわり


webでお見せしているのは、ほんの一部分に過ぎません。
というのも、非常にプライベートな本なので、実際には片付いていない台所の写真などもふんだんに使われているんです。
私はそこをとても重要視しています。ご依頼いただいた方と打ち合わせをする際、「 うちは台所がすごく汚いから 」と心配されることが多いのですが、私は「 そういうところこそ撮りたいので、ぜひそのままにしておいてください 」とお願いします。
「 いつもの状態をキープして、絶対にかしこまらないでください 」と口すっぱく伝えて取材に臨んでいます。


このサービスのコンセプトにも繋がりますが、「 当たり前のいつもの日常を捉えること 」が一番重要だと考えているからです。
着飾ったり、映える料理を作ったりするのではなく、いつもの状態にしてほしいのです。取材というバイアスがかかるのでどうしてもかしこまってしまいがちですが、できるだけ普段に近い状態を残したい。
普段使っている調味料や昨日の残り物を使うのであれば、ぜひそのまま作ってほしいと伝えています。それをきちんと記録したいんです。

一般的なレシピ本だと「 大さじ3 」といった表記になりますし、私もできる限り定量化するように努めてはいますが、「 醤油を2回し 」や「 パッと入れる 」といった、言語化しにくい情報こそなるべく残したいと思っています。
お部屋が散らかっているとか、料理が地味で茶色ばかりだとか、そういった部分もむしろそのままであってほしい。読むのはごく身近な人だけですから、包み隠す必要は一切ありません。
「 ありのままでいてください 」と必ずお伝えしています。


基本的に、取材、制作、編集を含め、最後の印刷工程以外は全て一人で行っています。


めちゃくちゃ大変です(笑)。
ただ、これにも理由がありまして、カメラマンと分業してしまうとコストがかかりすぎてしまうんです。なるべく一般の「 市井の人 」に作ってほしい本なので、サービス価格を限界まで抑えています。
そうなると、私一人で頑張るしかありません。

コストを抑えつつ、記録として価値のあるものを残す。
まさに「 何でも屋 」としての私の職能が最も発揮できる場だと思っています。
私は広く浅くこなすタイプなので、プロのカメラマンのように完璧な写真が撮れたり、超かっこいいデザインができたりするわけではありません。
だからこそ、幅広く対応できる強みを活かしたのが、この『 味憶 』というサービスなんです。



そうですね。「 ハレとケ 」で言えば、「 ケ 」の料理を強く残したいと思っています。
もちろんハレの料理も良いのですが、そういったものは意識的に記録に残す人が多く、見栄えも良いため、誰かがやるだろうと。
私は、なんとかして「 ケ 」の部分を残していきたいんです。



おっしゃる通りで、作り方を正確に記録している人は少ないんです。
それに、面白いことに、この本通りに作ってみても、結局、完全には再現できないんですよ。


作ってみても、「 なんか違うな 」となる。それがまた面白いんです。
何度か作っていくうちに、今度は自分の手癖がついてきて、だんだんと「 我が家の味 」に変わっていくんです。レシピ本として中心には手順があるのですが、結局は自分で作っていく面白味も加わります。最近では味憶を「 タイムマシン 」と表現しています。
スマホで昔の写真や動画を振り返るのは視覚と聴覚の記憶ですが、料理を作るとなると、そこに「 匂い 」や「 作っている時の音 」「 食感 」など、プラスされる感覚が非常に増えます。そのため、「 懐かしいな 」「 あ、これこれ! 」と想起される情報がものすごく多くなるんです。
タイムマシンと言ってもいいくらい、実体験として過去に戻れる感覚があります。
料理は「 タイムマシン 」。思い出を美化させないことの価値





ハレの日の綺麗な記録は別の方法で残してくだされば良くて、私が担当しているのはあくまで「 ケ(日常)」の部分だと思っています。


はい、もちろん自分の手元にも保管しています。
取材はいつも楽しくて、ご家庭ごとの物語があるので、本当にやりがいがあります。
その後の編集作業は地獄なのですが(笑)。
家庭によって料理に対する考え方がそれぞれ違うので、とても面白いです。


ほとんどの場合、ご依頼いただく方が「 これを残したい 」と決めてこられます。私から提案するというよりは、ご要望に沿う形です。

昨年取材した90歳近いおばあちゃんの場合は、ご兄弟それぞれがリクエストした4〜5品を、真夏の暑い台所で扇風機だけで2時間かけて作ってくださいました。
ご本人もとてもお元気で、出汁の取り方などを活き活きと話してくださって、こちらも楽しかったです。


皆さん本当に嬉しそうに話してくださいます。
料理には必ずエピソードがくっついているので、各家庭の物語を聞けるのが取材の醍醐味ですね。
私にとって、味憶は仕事でありライフワークでもあります。これだけでご飯を食べていけたら最高なんですけどね。
「 とにかく家のレシピを残してほしい 」— 味憶アプリに込めた願い


アプリはずっと作りたいと思っていたのですが、予算の問題でなかなか実現できませんでした。
もちろん私が直接取材させていただくのがベストですが、そもそも「 自分の家のレシピを残す 」という行為は、味憶というサービスに限らず皆さんにやってほしいことなんです。
お金をかけずに自分で簡単に記録できるツールとしてアプリがあればいいなとずっと思っていて、現在のAI技術の発展もあり、ようやく実現できました。
本にする一歩手前の手段として、とにかく「 家のレシピはどんな形でもいいから残しておいた方がいい 」という思いが強くあります。


はい、実際にアプリもグローバル対応にして世界中でリリースしています。

本を作って改めて感じたのですが、私の母が亡くなった四十九日の際、親戚にコロッケの本を配り、実際に私がコロッケを作って振る舞ったんです。
親戚はみんな泣きながら食べてくれて、私自身も「 本として残しておいて本当によかった 」と心から思いました。
母が亡くなったことは悲しいですし、後悔がないわけではありません。
しかし、味憶を残していたことが私にとって大きな心の支えになりました。料理を再現できるだけでなく、当時の母の姿を思い出す「 タイムマシン 」としての機能が私を救ってくれました。だからこそ、皆さんにもぜひ記録を残してほしいんです。


自分を形作っているのは「 食べたもの 」だと思います。
打ち合わせでもよく話すのですが、残す料理は何でもいいんです。袋ラーメンでも、私は72ページの本を作れる自信があります(笑)。


料理に手間がかかっているかどうかだけではなく、その家に根付いたカルチャーが重要だと感じています。
SNS映えするおしゃれな料理もいいですが、土曜日の昼に帰ってきて袋ラーメンをすする思い出や、二日目のカレーを食べた記憶。そういった情報に紐づく感情が大切なんです。

取材の際も、料理の手順だけでなく「 なんで家にあるの? 」と思うようなプラスチックのコップなどをあえて写真に収めます。
他人から見ればガラクタに見えるかもしれないですが、その家族にとっては愛着のある大切なものだからです。


やりたいという人がいれば、ぜひやってほしいと思っています。私だけのものにしようとは思っていません。
ただ、全てを一人でこなすのはハードなので、うまい仕組み化が必要です。
アプリを通じて、手軽に記録を残す人が増えてくれたら嬉しいですね。


そう思います。
AIを使えば使うほど、味憶の持つ温かみや属人性は代替できないと感じます。効率化の部分ではAIを活用していますが、本質的な部分は人間にしかできないですね。


アプリの操作性にもこだわり、料理中で手が離せなくても音声でテキスト入力できるようにしたり、あとは、私が取材した経験を元にカメラ画面に「手元も撮ってみたら?」といったアドバイスが表示されるように工夫しています。


まずは、もっと広く知っていただきたいです。
アプリを使ってもらうこともそうですが、何より「 家庭の料理の記録を残してほしい 」という考え方自体が広まれば嬉しいです。
その結果として、これでご飯を食べていけるようになれば一番良いですね。



最高じゃないですか(笑)。そういうのがいいんですよ(笑)

ゲストプロフィール

山崎 達樹(やまさき たつき)氏
カラクリワークス株式会社所属 / 味憶 主催者 / 広義の意味でのデザイナー
福岡のデザインプロダクション「カラクリワークス株式会社」にてグラフィックやwebなど幅広いデザイン・ブランディング構築受託業務を行う傍ら、「ごはんで紡ぐ、なんでもない日」というコンセプトのもと、家庭料理のレシピを通じて、その思い出や周辺のことも含めた何気ない日常を記録して本に残す「味憶」というサービスを運営。
最近では、味憶を自分の手でも残せるアプリ「味憶APP」を公開した。
〜 第57回目の「いろいろTV」を終えた青木の振り返り 〜
「 袋ラーメンでも72ページの本を作れます 」
山崎さんのお話の中で、個人的に大好きで&天才的だと感じた言葉です(笑)
「 味憶 」が残そうとしているのは、豪華な料理や映える食卓でもなく、いつものご飯、いつもの器、いつもの台所。取材の前にも「 台所は片付けないでください 」とお願いして、きれいにして撮りたくなるところを、むしろそのまま残す。
そこに、山崎さんの強いこだわりを感じました。
「 (母の作った)あの料理、どうやって作っていたんだろう 」と思うことがあります。
料理レシピが欲しいなとも思いますし、作っている姿や音、匂い、台所の風景まで残っていたら嬉しいなとも思い、山崎さんが「 味憶 」を「 タイムマシン 」と表現されていたことが、とても印象に残りました。
特別な出来事だけではなく、市井の人たちの、なんでもない毎日の中にも、残しておきたい物語がある。「 老謡 」に取り組んでいる僕たちにも、とても通じるお話でした。
そして、袋ラーメンの味憶本などなど、いろいろな味憶本を集めた味憶フェス?!味憶図書館?!に行く日を楽しみにしています!
