いろいろ社の新たなプロジェクト「いろいろTV」。いろいろ社 社長の青木が気になる人に、いろいろなおはなしをお聞きするオンライン番組です。
第9回目は、ゲストに株式会社ファンディングベースの夏川戸大智さんをお迎えして、「地域観光」について、いろいろなおはなしをお聞きしました!
目次
まちの未来を一緒に考え、実践し、共存していく
初めまして、夏川戸です!よろしくお願いします。今僕は島根県の海士町のオフィスにいます。海がとても綺麗な場所なんです。
ファンディングベースの夏川 戸 大智(なつかわど だいち)です。今年31歳になります。ファンディングベースは今5期目を迎えました。18ヶ所の地域で事業開発をしています。登記上は東京の会社ですが、全地域に社員がいる形で活動しています。現在僕は、鳥取県と島根県の間くらいから3時間程フェリーに乗って行く離島で仕事をしています。
ファンディングベース社は、各地域の課題に合わせて事業相続と実践を行う、ベンチャー企業です。地方の自治体と一緒に、そのまちの未来を一緒に考えながら実践して、共存していくことを目指しています。その中で、社会性と経済性のバランスを大切にしています。経済性だけに特化すると街に必要な企業は生まれませんし、社会性だけに特化すると外貨を稼いだり、市場を作ったりということが難しくなります。
例えば、社会性だとまちの教育を担うといったときに、町営塾や公営塾の運営を僕たちが行います。経済性の部分でいうと、まちが持っている土地を使って、宿泊や飲食の事業をしながらマーケットを作っていくという遊休不動産の活用をしています。
僕は青森県の出身で、高校を辞めてから1年間フリーターをして、そこから自衛隊の防衛大学校に入学しました。そこでコテンパンにやられまして(笑) 硫黄島に行ったときに、自分自身の人生において何を成し遂げるのかを考えました。自分が死ぬことがわかっていても、自分の命をかけて1分1秒でも長く戦って、日本で生まれてくる子どもたちのために、自らの命を尽くすということを、自分よりも年齢の若い人たちが向き合っていたことを知って、自分は何をしていたんだろうと思いました。そのときは自衛隊で頑張ろうと思ったんですが、身体を壊してしまったので、卒業と同時に自衛隊を辞めることになりました。
卒業後は、ITの会社に入社して、その頃に青木さんにお会いしました。僕自身も何か事業を作れる人になっていきたいと思うようになりまして、ファンディングベースに入社しました。最初は大分を拠点に、使っていないビーチで観光資源を立ち上げや道の駅の運営、高校の授業に関わるなどしていました。そこから新潟県三条市で移住事業の立ち上げをして、4月から島根県海士町に来て事業作りとチームの立ち上げをしています。地域と都会をつなぐ、若者にとってのインフラを作りたいと思っています。
海士町でやることは大きく2つです。まずは使っていなかったビーチを使って、この場所に来ることが目的になるようなコンテンツをつくること。 もうひとつは地域の人たちと一緒に、旅に来る目的になるコンテンツを一緒に作っていきながら、観光に来た人たちの体験を一緒にデザインしていくことを目指しています。「キープレイス」作りを目標に事業を作っています!
ありがとうございます(笑)
そうですね。うちのメンバーは個々のレベルで、その部分をとても気にしています。今は社員2~3人でひとつの事業を持っている形になっているんですが、1つのプロジェクトの中でも、社会性と経済性をどうバランス取っていくのか、拠点の中での事業の役割としてどう担保しているかを考えて動いています。自分の経済性ということではなく、その中から社会性をどう作っていくかということを考える一方で、教育やシティプロモーションなど社会性の部分にだけ携わっているメンバーは、それを年間で売上に繋げられるかを考えながら活動しています。
例えば、教育の事業なんですけど、僕たちが関わるまちの規模はだいたい人口1〜2万人が多いので、民間の塾が参入してこないんですね。そうすると、教育に関わる場所が学校しかありません。そうしたときに、まちとして子どもたちの人材を育成したいということで、町営塾を立ち上げていきます。このような場合、経済性はあまり見込めないので、町営塾に通っている子どもたちと関わりたいようなツアーを一緒に作って、学校事業と連携したりしています。
「個人の豊かさ」と「まちの競争力」を持った社会を目指す
ファンディングベース社では、「自由をアップデートする」をミッションに掲げているんですが、僕たちの自由の考え方はいわゆるフリーではなくて、「自らによる」ことを大切にしています。これの逆が「他人による」なんですが、「社会がこうだから」「他の人がこういっているからこうする」という未来の作り方ではなくて、自分自身がこういう社会を作りたい、こんなことをしたいと、自らの意思で未来を作っていけるような社会を作っていこうと目標にしています。
このミッションをまちに置き換えたときに、「このまちってこうやってきたから、これからもこうするよ」ということが多いと、何も新しいことがクリエイトされないんですね。だからこそ、自分自身は「このまちをこうしていきたいと思う」ことが、まちの競争力に繋がり、それを作っていったことが経済性をきちんと担保することによって、個人の豊かさにも繋がっていくと思っています。
そうですね!みんなそのまちに住んでいます。実際に生活をすることで、一緒にまちづくりをしていくイメージですね。
みんな縁もゆかりもない場所に、勤務先が決まります(笑) でも「君はこの地域ね!」と会社が決めるのではなく、どういうことを成し遂げていきたいのかをしっかりとヒアリングした上で決定しています。各拠点によって、課題やプロジェクトが違うので、そこにマッチしたところに配属されるようになっています。どこの地域に行くかよりも、何に向き合うかが重要視されています。
そうですね!だいたい1拠点3年ほどです。
豊後高田市に3年いて、そのあと三条市に1年行って、海士町に1年です。
僕の場合は、めちゃくちゃ愛着が湧きますね(笑) 離れるときすごく寂しくて・・・三条市から離れるときにまちのみなさんがサプライズで集まってパーティーを開いてくださって、泣きそうになりました。
地域で事業をすればいいということではなくて、事業を作るまでにそのまちの風土はもちろん、住民同士の関係性まで入り込んでいきます(笑)
道の駅の運営から、高校の授業まで幅広くまちに関わる理由
例えば、一次産業というカテゴリーの場合、道の駅の運営をしています。大分では地域のお母さんたち10人で運営している道の駅があって、これ以上の継続が難しいということで、僕たちが運営を引き継ぐことになりました。誰に引き継いでもいいという訳ではなくて、信頼できる人に譲渡したいとのことだったので、メンバーの1人が2年ほどその道の駅で働いて、信頼関係を築いて譲渡という流れになりました。教育というカテゴリーでは、町が経営する町営塾の運営や高校の魅力化等をしていす。
大学で外に出るのは個々人の意志ですが、結果的に卒業後にまた地元に戻ってきてくれるといいなと思っています。根底の学力をどう上げるか、好奇心をどう育むか、何かチャレンジして成し遂げることができる教育プログラムを運用しながら、学ぶこと自体を面白いと思ってもらえるように取り組んでいます。
関係人口とはいろいろあるんですが、ふるさと納税の運営や移住定住者の誘致や、コミュニティスペースの運営、サテライトオフィスの誘致などがあります。
それとは少し違って、何に取り組んだらいいかということから考えて欲しいという依頼ですね。「私たちのまちは何から取り組むべきなのか」「教育に対して課題を感じているが、どういうアウトプットをしたらいいのかわからない」という漠然な状態から、サポートに入っています。対話をしながらその部分を突き詰めていって、一緒にプロポーザルに出していくという進め方ですね。
そうですね!
ファンディングベース社ほど、深い関わり方をしている企業ってあまりないんですね。だからご指名いただくことが多いです。内容や想いに相違がある場合は、こちらからお断りすることもあります。
ファンディングベース社は、地域おこし協力隊や地域活性化企業人という制度を使っているので、その範囲内でできることであれば、僕たちが取り組んでいることもあります。海士町の場合は、町長がグランピングを作りたいという想いがあって、ローカライズした計画を作ろうということで、その段階から僕が地域活性化企業人としてプロジェクトに入って計画作りから携わっています。
人口約2,000人の島、島根県海士町の持つ魅力と観光
そうですね!海士町には、もともと「ユネスコ世界ジオパーク」に選ばれまして、その環境をいかに売り出して観光に繋げていくかに着目しています。そのなかでひとつ、自然を調和して楽しんでもらうグランピングは外したくないなと思いました。あと宿泊施設内で収まるのではなく、地域の中に遊びに出て行って欲しいという思いもありました。
そうですね!
それが少し予定が延びてしまいそうで、来年の春くらいになると思います。今年に入って資材の高騰もあって、予算の組み直しから改め行っていますね。
そうですね。基本的には小さいまちだと、前例がないケースもあるので、どうしたら国の交付金を受け取れるかを考えたり、計画を立てるところから考えていきます。
設備も作りますし、インストラクターのオペレーションや集客まですべて関わっていきます。ほかにも、地域の漁師さんにご協力いただいて、夜に星空を眺めるサンセットクルーズを企画しています。
海士町の場合だと、教育の事業と一緒に連携することもあります。
そうですね!教育事業の取り組み自体がとてもおもしろいので、大人の学びにも繋がるね、というはなしもしています。ビーチとグランピング施設の中間地点に、もともとあったBBQ施設を改装して、夕日が見えるサウナ施設を作ろうとしています。さらに昔、薪を作っていた場所に何か新しいものを作れないか企画中です。
年度ごとのプロジェクトになるので、年度内に動き出したものは、3月までには形にしないといけません。
ある程度こちらでも、どのようなまちにしていきたいかのはなしをさせてもらった上で、じゃあこのようなフィールドでどう活動していくかを一緒に考えていきます。
地域の他の民間の事業者とも、一緒にできないかというはなしもあるので、僕たちが目指している方向性に近いものがあれば一緒にやっていきましょう!ということになります。
今高校の野球部を教えているんですが、東京都や神奈川県から島留学に来ている生徒がほとんどですね。今はまち全体で見ても移住者が増えていて、大体2000人中1割〜2割はIターンやUターンの移住者ですね。
島自体で新しいプロジェクトが動いているので、その中で採用されたりする人もいれば、既存の仕事で働いている人もいます。既存の仕事というのは、牡蠣の養殖を事業承継してやったり、高校に魅力科コーディネーターという役割で入ったり様々です。他にも海士町の役所は、「半官半民」という半分地域の取り組みをする人を採用するケースも増えています。新しい働き方でいうと、パラレルワークができる人の組合「海士町複業共同組合 AMU WORK」を作っています。海士町はもともと季節労働者が多いんですよ。夏はイカ漁で人が足りない!秋は農家さんで人が足りない!ということがあって、季節ごとに働く先を変えられる組合を作って、そこに働きに来られる方もいらっしゃいます。20代の女性の方が多いですね。
そうですね。仕組みとしてはそれに近いんですが、個人としては、もともとその土地に行ってみたいというよりは、事業に興味があったということが多いように感じます。一次産業に興味があったけど、いきなり就職・転職して自分にあわないこともあるので、リスクが高いですよね。季節が変われば違う仕事が体験できる仕組みを利用していくつか試せるのであれば、チャレンジしてみたいと思って海士町にきてくださる方が多いですね。例えば、林業に携わってもしそれが自分にマッチしているなと思えば、ずっとそこで知識を深めることもできます。
そうですね。個人としてもいろいろな働き方を試していきたいし、他の人にも試してもらいたいと思っています。
未来投資基金を使って、みんなで海士町の未来をつくる
さらにふるさと納税から地域の新規事業に投資される、基金の仕組みを作っています。「未来投資基金」という名前で、まちに入ってきたお金の2〜3割を地域の事業者がやりたいとチャレンジするものに投資をしていく基金です。
町長はもちろんですが、役場職員のみなさんや民間の経営者の方々もアイディアを出してくださいますね。役場の20〜30代のみなさんも積極的にアイディアを形にしています。挑戦するマインドや文化は強いように感じます。
そうですね。いろいろなことが起きているからこそ、点になりがちなので、いかに線にしていくかが僕たちの役割だと思っています。例えば、先程のおはなしのように地域の事業者とアクティビティを作りますというときに基本的には、「未来投資基金」のファンドの仕組みを使うんですが、なかなか通りづらいんですね。海士町は距離的なものや数字が見えづらかったりするので、判断する側も難しいと思うんです。そういったときに、一緒に座を作ってみましょう、お客さんに対してアクティビティをやっていきましょうという取り組みをすることで、実証実験の場としても機能していくので、そこを判断してもらうように働きかけています。
先程の複業組合に関わっている人たちもそうですが、自分たちも事業を作りたいと思う人もいるので、そういう人たちも一緒に巻き込んでいます。
観光という部分が海士町の秀でた部分になっているので、観光で人が呼べないと希望が生まれないんですよね。そしてなにより、まち自体のネームバリューやイメージが外に伝わっていかないんですよね。そこの部分に取り組んできたからこそ、海士町の名前が徐々に広まっていきましたし、そこをさらにアップデートしていくことが大切だと思っています。
ワーケーションをできるコワーキングスペースもあるので、仕事はそこでしてもらって、定置網漁の漁船に乗ってもらいたいなと思います。漁船で釣れた魚を漁師さんに捌いてもらって、みんなで一緒に食べたりしたいですね。牡蠣漁師さんと一緒に牡蠣を磨いてもらったり、一緒にBBQをしてもらったりするプランもありますよ!
僕たちの観光事業のテーマは、”その人にとって一番いい体験を僕らがサービス提供できるか”なんですけど、島に入ってから出るまでの体験を僕らがどうデザインできるかが大切なんです。その人にとって一番いい過ごし方はこれだねと、僕らが提供できればベストですよね。
パーソナライズされた体験を提供したいんです。まちの人たちも、「こういう人が来たら、この人に会って欲しいよね」みたいな想いがあるんですよ。そうやって人と人とをつなぐことも面白いことだと思います。
エンジニアやフリーランスの方など、リモートワークでできる職業の方が多いですね。あとは経営者の方もいらっしゃいます。
今宿泊でいうと2種類しかなくて、ホテルか島宿と呼ばれる民宿ですね。民宿は本当に実家みたいな雰囲気なので、みなさん「実家に帰ってきた気がします!」っておっしゃっていますね(笑) 1部屋借りて、朝ごはんと晩ごはんをそこのお母さんが作ってくれるみたいなイメージです。
そうですね。島宿は今8〜10個ほどあるんですが、それぞれ個性があって素敵なんですよ。みなさんそれぞれお好きなところを選んでいただいています。
スナックに行くような感覚だと思ってもらえれば(笑)
平均的には、2泊3日が一番多いですね。島をいろいろ巡るよりも、好きな島にずっとい続けるという人が多くて、今のところ隠岐島町と海士町が人気です。人口規模でいうと、隠岐島町は13,000人、海士町2,000人なので、割合的には海士町の方が多いかもしれないですね(笑)
あまりテンプレ化はしたくないですね。ゆくゆくは、お客さんと地域の人が一緒にコンテンツを作るのも楽しそうですよね。例えば、何回も来てくれているお客さんにしか提供しないプランがありますとか、そういう方向性でディープにしていくのもいいなと思います。海士町にいらっしゃる方はハイレンジな方も多くて、海士町のために何かしてあげたいというケースも多いですね。1度来て好きになってもらって、海士町愛を持ってくださる方もたくさんいます。
そこまでいくと面白いんじゃないかなと思っています。
サービス的にいうと、お客さんの期待値を超え続けるからこそ、このまちに何か還元したいなと思ってもらえるんだと思います。事業者としては、ずっと超え続けていきたいなと思っています。
そうですね!その人にフォーカスしたものや、抽出したようなコンテンツを作りたいなと思っています。なんとなく地域で事業を作るのではなくて、その人の生き様やその人の人生を集約した、そこでしか味わえないサービスを受けてもらえるように、地域の人たちと協力し合っているという感じですね。それの集合体が魅力的なコンテンツや足を運ぶ目的になると思います。
ニュアンスとしてはそれに近いですけど、例えば牡蠣ひとつ食べるにしてもそのコンテンツを感じてもらうというか。海士町の牡蠣は、フェリーで出荷しないといけない分送料が高くて売れないんですね。それだったら、他のエリアが1年で出荷するところを、綺麗な水場で3年間かけて大きくして、販路を拡大していきました。こういったストーリーを含めて、体験をできるような場にしていきたいと思っています。
実際に手を動かして得られる体験だけではなく、その後ろにあるストーリーやプロセスも含めて、牡蠣を食べる体験ができるように伴走していけるといいなと考えています。
もちろん人によってどこまでサービスを受けたいかのグラデーションはあると思うので、導線をわけたいなと思っていますが、深さまで知れるような場を提供したいですね。